トルタラボをつくる (2009年8月)
「TOLTA 3」まで、製本に必要な作業は自宅や公共施設を借りてやっていたが、加工工程が増えるにつれて追いつかなくなった。在庫と仕掛品置き場と作業場所を確保すると寝る場所がない。あるいは通路がない。毎日「倉庫番ゲームの日々である。ある日耐えられなくなり、物を置く場所を借りることにした。そうすると思いもかけず気持ちのいい場所を借りることができたので、ここに人を呼んで小さな会をしてもいいなと思った。それがトルタラボの始まりである。
築40年以上の風呂なしの木造アパート2階、6畳間と4畳半の板の間、ベランダつき。この部屋にラボ、なんて大げさな名前だけど、響きがおもちゃみたいで可愛いし、試しにいろいろやってみる場所なのでそんなに間違ってないんじゃないか。
2009年12月に発行した「TOLTA 4」の製作が完全に家内制手工業の世界になったので、この初代トルタラボを作ったタイミングは絶好だった。自宅からあふれた詩誌や詩集、レーザープリンタ、裁断機、各種工具、文房具、画材、もろもろの材料、調理器具、古すぎて使ってなかった布団、寝袋、等々を持ち込んで作業をした。「TOLTA 4」を作ったあとは、時々トルタカフェと名付けたお茶会をしたり、合宿をしたり、誰でも詩誌や詩集を読めるオープンデイをひらいたり、企画の説明会を開いたりした。その後ここでアーティスト・イン・レジデンスもどきができることに気づいて「トルタバトン」企画をはじめた。
初代トルタラボは2014年3月で閉鎖し、2014年4月から新しいラボに移転している。新ラボは自宅に併設、前よりも広くて、少し雰囲気が違う。
いまにして思うのだが、自分たちで自由に使える「場所」を作ったのは正解だった。維持費はかかるけれど、何かしたいとか、ちょっとした思いつきを試したいと思った時、場所を探すエネルギーを使わなくてすみ、その分自由を手に入れることができる。この場所に制約されることだって、実際はつくることに役に立つのだ。