ワンハンドレッドメートルトルタ(100Mトルタ) (2010年5月)
「ワンハンドレッドメートルトルタ」(略称:100Mトルタ)は、全長100メートルの「本」です。
この本は、電子書籍元年の2010年に、書物の二つの側面、情報コンテンツとしてのありようと、物体としてのありようの両方を体現すべく構想されました。
1センチあたり2行で全長100メートル(理論値)、1作品は1段に20000行、全部で4作品を掲載し、B5サイズ書籍用紙と、糊と、トナーで構成され、木とネジとパイプとハンドルとキャスターのついた専用架台「トルタポチ」にセットされています。
10メートルのトルタロール、54メートルのジャイアントロールを作成した後、これ以上長い巻物本として「とりあえず何メートルのものを作るべきか」という話題が出た。答えは「やはり100メートルだろう」ということになった。なにせこの社会は10進法でメートル法の世界である。きりがいい。
100メートルの長さの本で何をするべきか。そもそも本の「長さ」とは何を意味するのか。当時、電子書籍元年と呼ばれ、様々な電子書籍コンテンツの話題がニュースを賑わせていた。紙で本を作ってきた者にとって、テキストの電子化はいやでも考えなくてはならない課題である(いまだにそうだ)。
にもかかわらず、というよりだからこそ、私たちは100メートルの紙の本を作ったのだった。電子化されたテキストの第一の特徴に、分量が多くても、紙の本より物理的にはるかに小さいサイズに格納できること、検索可能性があること、が考えられる。また複製が容易で、簡単にばらまける。一方100メートルひとつながりの巻物は、綴じた紙の本に比べても、重く、検索可能性は皆無で、非常に読みにくい。しかし電子書籍が「本」と呼ばれるのと同様にこれだって「本」である。しかもスクロールできるのだ!
100メートルをまきほどくのが多少楽になるように、この本のために「トルタポチ」と名付けた架台を制作した。架台には巻き取り用ハンドルとキャスターがついており、本を犬のように連れて歩くことができる。作品は全部で4つ、1段あたり1作品が100メートル(2万行)にわたって続く。本作を初めて発表した文学フリマでは、1センチあたり5円で計り売りした。お客さんが希望した長さをハサミで切って売るのだが、誰も全体を読むことができない。イベントではみんな面白がってくれた。
しかしひとつ心残りがことがある。実は当時、この作品の架台も含めた全体を受注生産しようとした。しかしイベントで発表するだけと異なり、お客さんの手に届けるには不首尾がたくさんあった。結局そのせいで、個別販売エディションが完成していないままである。いずれ完成させたいと思っているのだが、出来ないような気がする。「終わり」をきちんと作れていないプロジェクトは、いまのところこれだけだ。
「ワンハンドレッドメートルトルタ」(100Mトルタ)
2010年5月23日発行
作成台数 2台
価格:1センチ5円
B5サイズ書籍用紙、糊、トナー、専用架台「トルタポチ」つき
全長100メートルの「紙の本」
1センチあたり2行/全長100メートル(理論値)
1作品は1段に20000行、全部で4作品を掲載
■執筆者/掲載作品(各2万行)
山田亮太 詩「タイプ・コンストラクタ」
関口文子 戯曲「空にいこう」
佐次田哲×詩作くん「井戸」
河野聡子 エッセイ「ワンハンドレッドメートルトレイン」